Conversation 07

Guest家入一真|CAMPFIRE代表

Profile

家入一真

いえいりかずま/1978年、福岡県出身。株式会社CAMPFIRE代表取締役CEO。中学2年生で登校拒否、引きこもりを体験する。22歳で株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を福岡で創業。2008年にJASDAQ市場へ上場。退任後、クラウドファンディング「CAMPFIRE」を立ち上げ、2016年、現職。2017年8月にフレンドファンディングアプリ「polca」をリリース。50社超のスタートアップ投資・育成のほか、シェアハウス「リバ邸」の全国展開も。最新刊に『なめらかなお金がめぐる社会。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

家入一真と語る
「評価経済時代」のお金の稼ぎ方

対談第7回目は、起業家でCAMPFIRE代表の家入一真。CAMPFIREは本メディア立ち上げの際に制作資金を募った、クラウドファンディングのプラットホームだ。クラウドファンディングやVALUが注目され、個人がインターネット上でお金を集めることができるようになった時代。人間の「評価」によってお金を稼げるようになると、何が変わり、何が失われていくのだろうか。

  1. 1.「コンプレックスがない」がコンプレックス?
  2. 2. クラウドファンディングのコツってなんですか?
  3. 3. 評価経済はディストピアか?
  4. 4.「夢は叶う」はウソ?

◇「コンプレックスがない」がコンプレックス?

ぼくりり

“ぼくは自分が恵まれていることへのコンプレックスが強いんです”

家入

“もう「個の時代」にシフトするのは止められません。自分の物語を自分で考えないといけない”

ぼくりり:本メディア「Noah’s Ark」の立ち上げにあたっては、家入さんが代表を務めるCAMPFIRE家入一真氏が代表をつとめるクラウドファンディングプラットフォーム。にお世話になりました。無事、目標金額を達成することができました! ありがとうございます〜。

家入:おめでとうございます! CAMPFIREのコンセプトは「小さな火をともす」です。というのも、ぼくは、インターネットサービスは無名の人やお金のない人、地方の人のためにあると信じています。そういう人たちに使って貰えるものにしなければいけない。

ぼくりり君が今回、音楽表現というかたちではなく、メディアを立ち上げようとしたときに、まさに「小さな火」という感覚を持ちました。だからこそ、CAMPFIREで応援したいと思ったんです。それにしても、なぜ自らのメディアを立ち上げようと思ったんですか?

ぼくりり:メジャーレーベルに所属しているので、クラウドファンディングで集めたお金で音楽をつくっても仕方ないと思っていました。同名のアルバムである『Noah’s Ark』は、ポスト・トゥルースの時代に人びとが情報の洪水に飲まれていく様を、ノアの方舟をモチーフにして表現しました。だったら、同じ名前のメディアをつくり、この情報の洪水の中でどうサバイブしていくのか、いろんな大人に話を聞いてみたいと思ったんです。

けっこう若い人がぼくの曲を聴いてくれているので、政治や経済、新しいことに興味がない人を、音楽という別のベクトルから触れてもらうことができるんじゃないか。そして、逆にそういう話が好きな人が、ぼくに興味を持ってくれるんじゃないか。そんな狙いがありました。

家入:ミュージシャン自らそういう動きをすると、往々にして炎上することもありますよね。そのリスクは考えなかったんですか?

ぼくりり:なので政治的な主張はしないようにしています。矛盾するようですが、ぼくは、あまり政治に興味がないんです。「自分は政治の対象になっていない」という感覚があって。国家の本質のひとつとして、税金などを通じた富の再分配があると思うんですが、現状、ぼくはみなさんのお陰で自立した生活ができていますし、そういう意味でも自分は政府が救うべき対象ではないと感じています。家庭ができたりしたら、また違うと思いますが。

家入:なるほど。あんまりそう考えたことがなかった。

ぼくりり:ぼくは自分が恵まれていることへのコンプレックスが強いんです。生まれつき持った悪い境遇をひっくり返す、みたいなストーリーへの憧れがあります。

家入:ぼくの場合は不登校や親の自己破産を経験しているので、どちらかというとぼくりりくんとは反対側の人間だと思っています。

ぼくりり:そうですよね。ぼくは中高私立の男子校に行かせてもらったし、両親いるし、お金に困ったこともない。つまり、コンプレックスがないんです。だから、コンプレックスが羨ましいなと思います。

家入:ぼくりりくんが言うように、「コンプレックスがないのがコンプレックス」と口にする人って、ぼくの周りの学生に増えています。ぼくは生きづらさを抱えた人が好きなので、「劣等感やつらい経験のある人間のほうが強いよ」といつも伝えているんですけど、そういう話をすると彼らは「コンプレックスがない」と打ち明けてくる。

ぱっと見た感じはイケメンだったりオシャレだったりして、コミュニケ―ション能力もある。でも、内面は崖っぷちです。見た目が普通だからこそ、誰にも気づかれない悩みを抱えている。

ぼくりり:「コンプレックスを持っているほうが強い」って、昔は逆張りだったはずなんですよね。まっとうに生きるほうが正しい時代があって、そこから外れても大丈夫だよと励ますためのものだった。でも、今はコンプレックスのあるほうが主流になりつつある気がするんですよね。じゃあそういうコンプレックス、欠点がない人は何を目指せばいいんだろう。

家入:こういう話をしていると、村上龍の『希望の国のエクソダス2000年に発売された村上龍の小説。「エクソダス」とは国外脱出のことで、旧約聖書の「出エジプト記」がもとになっている。この本を書くために、著者の村上龍は、中学生や官僚などに3年にも及ぶインタビューを取材を行ったという。』を毎回思い出します。中学生たちがネット上でコミュニケーションをとり、最終的には北海道に移住して独立国家をつくろうとする小説です。

中学生が「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」と演説をするシーンがあって、今の日本を表していますよね。豊かさを目指したその先を誰も想像できていない。

ぼくりり:全クリしたあとのRPG感ありますよね、誰を倒せばいいの? って。昔は「国の発展」なんかに自分の目標を重ねられたのかもしれませんが。

家入:今、「古きよき日本を取り戻そう」というようなメッセージを、政府が押し付けてきますよね。善し悪しは別にして、「国」のような大きな物語にもう一度乗っかれば、国民は幸せになれるんだと、けっこう政府は純粋に信じているのではと感じます。

ですが、もう「個の時代」にシフトするのは止められません。自分の物語を自分で考えないといけない。だから「コンプレックスがないのがコンプレックス」と若い子たちが悩みだしてしまう。

◇クラウドファンディングのコツってなんですか?

ぼくりり

“評価経済に概ね希望を持っているんですが、ひとつ懸念があるとすれば、表に出ない裏方の仕事が軽視されてしまうのではないか、ということです”

家入

“フォロワー数や知名度と、信用はリンクしていないんです”

家入:最近、「評価経済2013年に発売された、岡田斗司夫による『評価経済社会 ぼくらは世界の変わり目に立ち会っている』により提唱された。「貨幣」よりも「評価」が重要視される社会の到来が予測されている。」という話が出てきているのも、個の時代の延長線上にあります。これまでは大きな経済に身を任せていたら、お金を稼ぐことができました。ですが、そのことに漠然と違和感を持って、自分の手や自分の力で稼いでいることを実感したい人が増えているんじゃないかな。

ぼくりり:クラウドファンディングや、今話題のVALU個人が企業のように、VAと呼ばれる疑似株式を発行し、他者と売り買いできるマイクロトレードサービス。取引にはビットコインが利用されている。はまさに評価経済ですよね。自分の「評価」を資本にしています。

家入:評価経済の本質は、単に評価をお金に変換することではないと思っています。それだったら、今までの経済と一緒です。あるWEBデザイナーのケースだと、農家のホームページを作成していたときに、病気にかかって動けなくなってしまった。すると「この人はいつもいい仕事をしているから」と、農家の人たちが余った大根を持って来てくれたそうなんです。セーフティネットの役割も果たすし、そこにコミュニケーションが生まれていくんだと思います。

ぼくりり:ぼくは評価経済に概ね希望を持っているんですが、ひとつ懸念があるとすれば、表に出ない裏方の仕事が軽視されてしまうのではないか、ということです。不特定多数の人による評価は、表に出る人を支えている人の仕事にまで及ぶのでしょうか。実際、たとえばVALUなんかを見ると、有名な人ほど高値がついています。クラウドファンディングも、知名度のあるほうが有利だと思うのですが、それは「小さな火をともす」ことになるのでしょうか?

家入:なるほど、興味深い視点ですね。声が大きい人は有利なのですが、それだけで必ずプロジェクトが成功するとは限りません。フォロワー数や知名度と、信用はリンクしていないんです。有名芸能人がやったからといって、簡単にお金は集まるわけではない。

ぼくりり:一方で、認知度がないけれど、集まるプロジェクトもありますよね。それはなぜですか?

家入:前提として、CAMPFIREの立ち位置は、「声は挙げられるけれども、お金が集まる、夢がかなうとは限らない」というものです。クラウドファンディングは、掲載したらお金が集まる魔法のツールではありません。

その上で、何が成功のカギを握るのか。ぼくらは「3分の1ルール」と呼んでいるのですが、まずは自力で3分の1を集めることのできる人は強い。リアルの知人に、お金を出してもらうんです。それが集まりはじめると、SNSで波及して次々と集まりはじめます。そうすると、残りの3分の1は、知らない人からでも集まるようになる。

もっと言えば、初日で目標金額の10%を切るプロジェクトは失敗して終わることが多いんです。これらはデータ上の裏付けがあります。

ぼくりり:初速が大事なんですね。

家入:そうですね。このルールには、金額も知名度もあまり関係ありません。結局のところ、お金を集めるのは大変なことなんです。

ぼくりり:クラウドファンディングには、出資してもらった額ごとに得られる権利「リターン」が設けられていますよね。ぼくは支援者のためだけの楽曲や、ぼくが1日インターンシップをする権利などをつけたのですが、どのようなリターンがウケるのでしょうか。

家入:上手くいっている事例としては、「共感」ではなく「共犯」に持ち込むようなものですね。このプロジェクトはすばらしい、応援したいと思うのは「共感」にとどまります。

では「共犯」とは何か。たとえば、カフェをつくるときに、壁を塗れる権利をクラウドファンディングで売る。カフェの壁を塗ってみたいと思う人って一定数いますから。本来であれば、壁の塗装は業者にお金を出してやってもらうものですが、あえてその権利を売るんです。3万円も手に入るし、壁も塗ってくれる。しかもカフェができた後に「あの壁は俺が塗った」と来店してくれる。これが「共犯」です。

ぼくりり:なるほど。まさにコミュニケーションが生まれると。……正直なところ、ぼくは共犯したくないんですよ。

家入:ふふふ、面白い。

ぼくりり:ぼくがやりたいことをするので、それを気に入ってくれる人だけが支援してくれればいい。それはプロジェクトごとに違っていてもいいと思います。前回はよかったけど今回は微妙だね、とか。

家入:一回性の関係で終わってほしいと。

ぼくりり:そうですね。ファンとの関係で言えば、ファンクラブのような形のほうが最適だと感じています。ぼくを応援してくれる人を固定で抱えることになりますから。

家入:今は製作費を集めるクラウドファンディングが主流ですが、ぼくりり君が言ったように、これからは長期的にその人の活動を支えるファンクラブ型のクラウドファンディングも注目されていくでしょうね。バイトをしながらものをつくっている人はたくさんいます。そのような方が、月5万でも集まれば5万円分のアルバイトを減らせます。

たとえば、ノンフィクションライターは取材費のかかる仕事で、お金に困ることもあると聞きます。この人だったら絶対に面白いものを書くと確信しているファンが毎月3,000円でも出していけば、潤沢な予算で取材ができるかもしれない。

ぼくりり:生活費をファンクラブで集められたらのびのび活動できますよね。

◇評価経済はディストピアか?

ぼくりり

“いわゆる中二病的なものって人間の成長過程のひとつで、割と多くの人が通るはずなのにそれすら笑いものにされ叩かれてしまう”

家入

“インターネットですべての人がつながるのは理想で夢だったけれども、今のところ、つながってもそんなに幸せじゃないことがわかってきた”

ぼくりり:これから評価経済の時代がやってくることは避けられないと思うのですが、家入さんはどこに問題点を感じていますか。

家入:失敗できない社会になるでしょうね。たとえば、中国の「支付宝(アリペイ)中国の阿里巴巴集団(アリババ・グループ)による世界最大規模のモバイル決済サービス。携帯電話に表示したQRコードで、様々な支払いに対応できる。モバイル決済は中国国内で爆発的に普及しており、都市部では屋台であっても現金が使えないという。」では、「芝麻信用」と呼ばれる評価システムがあります。支払いが遅れたことはないか、何を購入しているのか、どのような社会階層の人とつながっているのか、個人の学歴や職歴……そういったデータから人間の信用度が数値化される。

ぼくりり:うわあ、強い世界だなあ……。

家入:信用度の高い人は、融資が受けやすいなどのメリットがあります。みんな、そのポイントを上げるためにはどうしたらいいのか、日々考えて行動している。ですが、それが行き過ぎると、「常にいい人じゃないといけない社会」「失敗できない社会」になっていくでしょうね。

極端な例ですが、一回でも人に迷惑をかけたり、支払いが遅れたりするだけで、スコアが全部傷つき、それ以降生きづらくなるかもしれない。タクシーのUberでも、お客さんから厳しい評価のついた運転手は検索の上位に表示されないように設計されています。人間、機嫌の悪いときもありますし、相性もあると思うのですが、そんなことは関係ない。

ぼくりり:巨悪ではなく、小さな悪が叩かれていくのかもしれません。今はネット上でもすぐに「イキリオタク「オタク」を自称する中でも、粋がっている人々のこと。オタクであることに加えて、足が速かったり、勉強ができたり、ケンカが強いなどと主張する。」が特定されて晒されますよね。そういう、いわゆる中二病的なものって人間の成長過程のひとつで、割と多くの人が通るはずなのにそれすら笑いものにされ叩かれてしまう。

家入:「飲酒運転」や「傘を盗んだ」と自分からわざわざ検索して、炎上させる人がいますからね。インターネットですべての人がつながるのは理想で夢だったけれども、今のところ、つながってもそんなに幸せじゃないことがわかってきた。

ぼくりり:たしかに、どうしても反りが合わないひととかいますからね。別にそこまで他人と無理につながる必要もないでしょうね。

◇「夢は叶う」はウソ?

ぼくりり

“今の女性は「インスタ映え」を意識して遊びに行ったりするようになりました。それって批判されますが、ぼくは悪いことじゃないと思う”

家入

“たいがいの夢は叶わないものなんです。でも成功した人は言ってしまう”

ぼくりり:評価経済になっていくと「いいね!」やフォロワーの数が如実に自分の価値に反映されそうですよね。今の女性は「インスタ映え」を意識して遊びに行ったりするようになりました。それって批判されますが、ぼくは悪いことじゃないと思うんです。この前作った「SKY's the limitぼくのりりっくのぼうよみによる2ndシングル。資生堂「アネッサ」CMソング。PVではぼくのりりっくのぼうよみが、自撮り棒を持ちながらプールサイドを歩いたり、水着の美女たちとsnowで自撮りをしたり、女装してsnowで自撮りをしている。」という曲でも、インターネット上で自分を盛る女の子を肯定するような歌詞を書きました。

家入:「承認欲求」はネット上でネガティブに使われますが、今の経済は承認欲求をお金に変える形で大きくなってきたのも確かですよね。

ぼくりり:ほう。

家入:コンビニや本屋に行っても、もっと幸せになる方法、もっときれいになる方法、もっともっともっともっと……が沢山並んでいる。もちろん「もっと」が活力になる人たちもいる。でも自分じゃない誰かになりたいとか、ここじゃないどこかに行きたいという欲求と、本来の自分との間に差異があればあるほど、お金にしやすいんですよ。

ぼくりり:本人じゃなくて、別の人がってことですか?

家入:そう。その差異を誰かがお金に変えるんです。ぼくも本を出してそういうことを言っている一人です。ぼくはもう、そういうことを辞めたいと思ってます。でも近々本が出ちゃうんだけど。

ぼくりり:出るんですね(笑)。

家入:行きがかり上、出ちゃうんです! ですが、少なくとも「起業はいいよ」とか「夢を叶えられる」という言い方はしたくない。たいがいの夢は叶わないものなんです。でも成功した人は言ってしまう。

ぼくりり:たまたまお前が成功しただけだ、という「生存バイアス特定の成功例や、最終的に生存したもの・出来事のみを基準として判断・評価を行うこと。「徹夜をしたほうがテストで100点が取りやすい」や「愛情を伴った体罰は子供を立派に育てる」など。生き残りバイアス、生存者バイアスともいう」ですよね。でもそれを言われると、何も言えなくなってしまいます。「Noah’s Ark」も最初は「みんないろんなことに挑戦したほうがいいよ」と若いファンの子たちに伝えたい思いもあったのですが……。何も言わないのが正解なのかなあ?

家入:最終的にはぐるっと回って「役割を演じる」ことになると思っています。

ぼくりり:役割。

家入:あるイベントで「夢は叶わない」と言っていたら、ある男の子に「夢がなきゃ生きていけない人もいるんです。すがって生きている人もいるんです」と言われたんです。何も言えなくなっちゃった。

ぼくは自分の誠実さとして、「夢は叶わない」と言うけれど、「夢は叶う」と言う役割の人もいるし、それは否定しちゃいけないなと。実際に、「夢は叶う」と話す登壇者のほうが、学生たちの目を輝かせていたように見えたんですね。無責任に言っているわけじゃなく、葛藤しながらも自分の役割として「夢は叶う」と口にしているのかもしれない。

ぼくりり:確かにそうかも。Jポップも揶揄されるじゃないですか。「すぐに翼をひろげるな!」「夢は叶わないぞ!」って。そういう歌詞は虚構だけど、ある瞬間に真実になり得ます。だから、ミュージシャンの人たちもそういう「役割」が必要だと思って、その需要に応えるかたちで曲をつくっている。結局、需要があるから供給もあるんでしょうね。

家入:一番楽なのは、斜め上から批判だけしていること。

ぼくりり:間違いない。

家入:批判ばかりする人がいるのも知っているし、それも楽な生き方なのかもしれない。でも、自分は批判するだけで終わりたくないな。そこだけは本当にそう思います。

ぼくりり:「評価経済はクソだ」と文句を言うのは簡単ですけど、この時代の流れには逆らえないんでしょうね。未来がたのしみだなあ。

Text_Potato Yamamoto